ただし快速は通過する

申し訳程度のDTMと音ゲーと同人音楽

好きな音ゲーが仮死状態になって二年が経ちました(後編)

(前編はこちら)

 

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埼玉県か茨城県か。

MUSECAのオンライン筐体は、関東にはもうその2県にしか残っていないらしい。*1

 

さらに詳しく見てみると、

埼玉県は「アミューズメントフィールドバイヨン」

茨城県は「AMジャムジャムつくば店」

と、1県に1店舗しかないようだ(本記事執筆時点)。

 

オンラインに繋がっているのは関東に2店舗しかないのに、現役オンラインサービス中のアーケード音ゲー

MUSECAの現状はつくづく不思議だが、まだオンライン筐体があることに安心した。

 

ある日、僕は埼玉県に立ち寄るチャンスを得た。

その機会に、埼玉県の「アミューズメントフィールドバイヨン」に行ってみることにした。

 

  

bayon-game.com

 

埼玉県ふじみ野市うれし野。

ひらがなが多くてかわいい。

 

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ソヨカというショッピングモールの道路一本挟んだ向かいに、LCモールというこれまたショッピングモールがある。

バイヨンはその二階にあった。

 

 

 

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なんじゃこりゃ。

 

とてつもないインパクト。これがゲーセンの入り口なのか。

 

バイヨンはカンボジアに実在する「バイヨン遺跡」をデザインコンセプトとしており、随所に遺跡の意匠を凝らしている。

この手のコンセプトタイプのゲーセンに入るのは川崎の九龍城こと「ウェアハウス川崎」*2以来だが、やはりニヤっとしてしまう。入場のテンションが上がるし、店舗の愛情も伝わってくる。

 

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看板キャラクターのばいのんちゃん。インディー・ジョーンズ風。


店内はフロアを横断するようにメダルゲームやスロットゲームがあり、店舗左側にレトロゲームや格ゲー・レースゲー、右側に音ゲーや他ビデオゲームといった構成。

高年齢層をターゲットにしているのかと思ったが、学生や若いカップルも見かけた。

 

ここにMUSECAがある。

音ゲーコーナーに入り、ずらりと並ぶmaimai筐体の裏に、その筐体はあった。

 

 

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折り紙をモチーフにした筐体。五つの回転するボタン。フットペダル。

2018年以来のMUSECAとの再会である。

 

e-amusement passを筐体にかざすと、画面が切り替わる。

 

「暗証番号を入力して下さい」

 

MUSECAのナビゲートキャラ「イリル」の声が聞こえる。

 

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MUSECA特有のタッチ式ボタンで番号を入力する。

 

「確認しました」

「このプレーデータでエントリーします」



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プレーデータが表示された。

そこにあるのは、二年前と変わらないデータ。

紛れもなく現役でサービス継続中の証である。

 

「ようこそ、MUSECAの世界へ」

 

イリルの声も懐かしい。

遊んでいた頃の思い出がどんどん蘇る。

 

そして選曲画面に入る。

カーソルは最後に遊んだと思われる「MeteorA」に合わさっていた。

この曲はレベル15(最高難易度)ですさまじく難しいので、まずは指ならしをすることにした。

最初に選んだ曲はもちろんyasetaさんの「Lo-Fi-M」だ。

 

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もっと下手になっていると思ったが、意外と悪くないスコアが出た。

自転車の乗り方のようなもので、一度習得してしまえば身体が覚えているものなのかもしれない。

 

選曲画面を回しているうちに、好きだった曲を思い出してきた。

 

オリガミカル・スウィートラヴ / かめりあ feat.ななひら

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youtu.be

 

 

Metsysralos / 庭師

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youtu.be

 

 

Redshift / technoplanet

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youtu.be

 

 

 

さて、一通り指ならしが終わったところで、あることを確認することにした。

それは、Grafica(カード)でまだゲットしていないものがあるかどうか、である。

 

MUSECAのゲーム内容を軽く説明しよう。

前編に書いた通り、MUSECAはカードゲーム×音ゲーである。

MUSECAには2つのプレーモードがある。

 

  1. シンプルに音ゲーを遊ぶモード

    このモードでは使うGraficaの性能はゲームシステムやスコアには一切影響がなく、ただ背景に表示されてかわいいだけである。

  2. Graficaを解放するモード

    このモードでは所持しているGraficaを使って、新しいGraficaを解放するミッションに挑戦する。

    ミッションごとに定められた描画量(通常のスコアとはまた別のスコア)を出せればGraficaが解放、ゲットできる。

    音ゲーの実力に加えて、Graficaの性能が影響するモードだ。

 

この②のモードがMUSECAのキモである。

 

前編にカードゲーム×音ゲーは成立しなかった、と書いたが、1+1/2という大型アップデートの後は、音ゲーのスコアとカードゲームによるスコアを分けることで、一つの遊び方が完成した。

このモードでは自分の実力とGraficaによる戦略性が組み合わさる。これがなかなか面白く、僕はこのモードが好きだった。

 

さて、所持していないGrafica、つまりまだクリアしていなミッションはあるのかどうか。

ドキドキしながら、選曲画面を②のモードに切り替えた。

そこには、まだクリアしていないミッションが一つだけ残されていた。

 

 

 

 

 

 

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お前かい。

 

このGraficaは……説明が難しい。

これは、コナミ音ゲーの連動企画「NEW Generation 流星拡散フェスタ2016」というイベントで入った楽曲「Triple Counter」のムービーをイラストにしたGraficaである。

ちなみに写っている人の顔はdj TAKAというアーティストで、コナミ音ゲーのレジェンドだ。

CVはそのdj TAKAと、jubeatの「Evans」などの作曲者で今はコナミアミューズメント執行役員でもあるDJ YOSHITAKA。二人はTriple Counterの作曲者である。

 

この解放ミッションの課題曲はもちろんTriple Counter。

他のコナミ音ゲーでご存知の方も多いと思うが、この曲はとにかく速くてしんどくて難しい。

MUSECAの譜面がどうなっているか、ご覧頂きたい。

 

youtu.be

 

挑戦したところ、案の定ミスをしまくった。

Graficaは解放できず、リザルトの描画達成率が表示される。*3

 

「81%」

 

ぜんぜんダメやん。

 

 

 

だが、ここからがMUSECAの醍醐味でもある。

 

ルールをもう少し詳しく説明すると、

このモードでは、楽曲の中に定められた3か所の区間*4がある。その区間内でのみ、Graficaの性能・効果が発動する。

区間1枚、計3枚のGraficaをどの区間に割り当てるかは自由で、ここに戦略性がある。

 

例えばこのGrafica。

 

 

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ト゛ットえアイト゛ル ひ゜くせたん。
 

スキル効果に「ERRORのたびに描画力が大きくダウン」とある。

ひ゜くせたんは基本性能(描画力という)が高く設定されているが、ミスをする度に性能が下がっていってしまう。

従ってこのGraficaは、ミスしてしまうような難しい区間に配置するのを避けて、ほぼ確実にミスをしない区間に配置することで真価を発揮する。ハイリスクハイリターンなスキルと言える。

1ミスもしない実力があるなら何も考える必要はないが、今回のように実力で届かない場合は戦略をよく考える必要がある。

言い換えれば、Graficaの戦略次第では音ゲーの実力が足りなくてもカバーできる、ということだ。

 

さて、このように譜面とカードの効果を考え、試行錯誤しつつ選んだGraficaはこの3枚。

 

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1枚目:コネクトリング / 秋赤音

コネクトガール。

 

 

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2枚目:煌めく紫水晶 / 墨洲

アメジストさん。

 

 

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3枚目:謎の文学少女 / にほへ

おなじみのしおりちゃん。

 

1枚目のコネクトガールは、ミスする度に性能が下がるスキル。代わりに基本性能が高い。

最初の区間は比較的ミスをしにくいので、ここでミスしないように頑張り描画量を稼ぐ。

 

2枚目のアメジストはスキルなし。

2番目の区間はどうしても連続してミスする箇所があるので、基本性能のみで考える。

 

3枚目はMUSECAで最も推しているキャラ、しおりちゃんである。

最後の区間は一番最後の盛り上がりで、譜面密度が高くミスも多くなる。スキルはないが、稼働末期にレベル上限が上がったことで基本性能が高いため、描画量を稼いでもらう。

 

というわけで、結局2枚がスキルなしというカードゲームとして終わってるチョイス*5となった。

 

この編成で再挑戦する。なおすでに10回以上挑戦している。

 

「98%」

 

これは行けるんじゃないか。

1クレ3曲すべてTriple Counterに費やす。

 

 

「99%」

 

「98%」

 

なんで下がるねん。

 

実は最初の区間で、途中でどうしても繋がるか繋がらないかという際どい譜面があり、コネクトガールの性能が下がってしまうことが何回かあった。

最後の区間もミスが多く、しおりちゃんの性能に頼るだけでは稼ぎきれない。

 

ここから先は自分の実力勝負である。

最初の区間をとにかく繋ぎ、最後の区間で1ノートでも多く取る。

 

さらに1クレ。

 

「99%」

 

「98%」

 

なんで下がるねん。

 

しかし次の3曲目は良かった。最初の区間でミスを抑え、最後の区間も落としていたDスピンオブジェクト(方向指定つきの回転オブジェクト)を取った。

行けるという確信があった。

 

そして。

 

 

 

「終わった……」

 

最後の区間が終わったと同時に、しおりちゃんの声が聞こえた。

それと同時に、背景にGraficaが現れた。

 

「100%」

 

 

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「もしかしてdj TA……」

「違う違う!俺リサリシア!」

流れるdj TAKAとDJ YOSHITAKAの声。

  

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こうしてTriple Counterを解放することができた。

 

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上級Graficaを全て解放した画面。

Grafica自体の収集はこれで終わりということになる。*6

 

前編に書いた通り、MUSECAはカードゲーム×音ゲーを実現しようとして、失敗した作品だった。

それでも改善しようとアップデートして実装されたこのGrafica解放ミッションは、音ゲーの実力とカードの戦略性が絡み合う良いモードだったと思う。

Graficaの効果を考えて戦略を練り、その上で足りない分を、自分の実力を出し切って勝ち取る。そうしてGraficaを解放した時の達成感は格別だ。きっと他のゲームではこの感覚は得られないだろう。

Triple Counterを解放し、そう改めて実感した。

 

二年以上前に、MUSECAにおける難関ミッションの数々……「絶対零度」が課題曲の音姫や「Redshift」が課題曲のレッドカーペット、「MeteorA」が課題曲のブリアレオスなどをクリアした時も、この感覚を味わってきた。

これがMUSECAの面白さなのだ。

 

その後引き続き何クレか遊び、最後にもう一度Metsysralosをプレーして、遊び納めとすることにした。

二年前のスコアは越えられなかったが、とても気持ちの良い終わり方だった。 

 

 

 

リザルト画面を終えると、「プレーデータを保存しています」と表示された。

当然である。MUSECAは半分死んでいるが、半分生きている。

 

けれど、もう一度同じ状態で遊べるかどうかはわからない。

今、MUSECAはゆっくりと死んでいく。

残っているオンラインのMUSECAは僅かだ。ゲーセンがこれをオフラインに切り替えるかもしれない。そうなれば、ゲームは遊べるが、これまでのプレーデータは使えない。難関ミッションで勝ち取り、育ててきたGraficaたちとはお別れだ。

あるいは、コナミがオンラインサービスを切るのが先かもしれない。

 

それは数年後か、あるいは近い未来かもしれない。

 

MUSECAが生まれる瞬間を見て、MUSECAが仮死状態になる瞬間を見た。

いつかオンラインサービスが正式に終了し、MUSECAは死んで、「かつて存在した音ゲー」としてレトロゲームの仲間入りをするのだろう。

せめて五鍵ビートマニアのように、オフラインでもひっそりとどこかのゲーセンで動いているようなゲームになってほしい。

そして100円を入れたプレイヤーに、イラストと音ゲーが絡み合うこの素晴らしい世界を見せてほしい。僕自身も、その時に100円を入れるプレイヤーでありたいと思う。

筐体が消えて本当に完全に遊べなくなる最期の時まで。

 

そう思いながら、筐体のイヤホンジャックからプラグを抜いた。

 

 



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「お疲れさま。……ありがとう。」

 

しおりちゃんの声を聞きながら、筐体を後にした。

 

 

*1:オフライン筐体はもう少し設置店舗が多いと思われる。だがそもそも最終アップデート(PIX:*:B:A:2018******)を適用した店舗が少なく、オンラインにしろオフラインにしろ全国的に台数は多くないのが実状である。参考→ MUSECA設置店舗wiki

*2:2019年閉店。

*3:解放ミッションは初級・中級・上級がある。下の難易度を選んでもGraficaの解放は可能であり、下の難易度で解放した場合はGraficaのレベル上限に制限がかかるだけである。ここでは筆者のこだわりにより上級以外では解放不能とする。

*4:正式名称はギフテッドエリア。

*5:ゲームバランスが良くないのではないか、と言われれば肯定も否定もできない。実際には、特定のノートで描画力が上がるスキルや、特定のキャラと組み合わせると性能が上がるスキルなど、様々なスキルがある。

*6:「上級」の上に「特級」という難易度があるが、特級は所持Graficaのレベル上限を解放するための難易度である。