ただし快速は通過する

申し訳程度のDTMと音ゲーと同人音楽

maimai歴1時間未満だけどmaimaiベストアルバム(7年分 全185曲)を聴いてみた(前編)

 

ゲームセンターにドラム式洗濯機*1が現れてから、今年7月で10年になる。

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SEGAのアーケード音楽ゲーム「maimai」。

そのベストアルバム『maimai ALL PERFECT COLLECTiON』が、2020年に発売された。

2012年に稼働した初代から2019年のFiNALEバージョンに至るまで、maimaiオリジナル曲がほぼ網羅された6枚組のCDで、収録曲数はなんと185曲。7年分の集大成である。

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さて、そんな7年分のCDと対峙する僕はというと、ほとんどmaimaiを遊んだことがなかった。

2012年にリリースされた当初に1、2クレ程度遊び、その後友達と一緒に2クレ程度。それ以降は遊んだことがなかった。1クレ3曲=10分程度と換算しても、おそらく総プレイ時間は1時間に満たない。

当時の僕は、maimaiを少し遊んだところで早々に見切りをつけていた。ゲームシステムがハマらなかったことに加え、収録曲のセンスがハマらなかったのが理由だ。

 

しかしその後、maimaiはどうなったか。

ブームを巻き起こしたmaimaiはみるみるうちに増殖し、ゲームセンターはドラム式洗濯機だらけになった。

そしてそこからSEGA音ゲーの進撃が始まる。*2

maimaiの後、2015年にリリースされた「チュウニズム」は好評を博し、2018年には「オンゲキ」が更に続けてリリースされた。

 

今や、ゲーセンの音ゲーコーナーの一角はSEGA音ゲーが占める。SEGA音ゲーはアーケード音楽ゲームとして独自のポジションを築いたのだ。

 

この約10年で劇的な成長を遂げたSEGA音ゲー

そんな音ゲーにほとんど触れていないのは、音ゲーマーとして恥ではないか?

 

そんな反省もあり、まずはSEGA音ゲーの立役者でもあるmaimaiの収録曲を聴いてみようと思い立ったのだ。

幸い、このベストアルバムは、2012年稼働の初代からFiNALEバージョンまで、歴史を追うような順番で楽曲が収録されている。

 

せっかくなので、

印象に残った曲

収録曲の傾向の変化

を挙げながら、maimaiの歴史に触れてみようと思う。

 

なお、ピックアップはあくまでも個人的な印象によるものであり、当然これがmaimaiの歴史全てではない。

しかしその歩みを垣間見ることはできるだろう。

 

【DISC1】初代maimaimaimai PLUS(2012年~2013年

・We Gonna Party/Cranky

BMSのほか、おもしろFlashこと「num1000」に楽曲「Party 4U」が使われたことで有名なCranky。同氏といえばコレ、と言うべきアガるレイヴになっている。※引用はロング版

 

・Fragrance/Tsukasa

▲Tsukasaは、韓国音ゲーDJMAX」に提供した「The Clear Blue Sky」などが有名。静かなイントロから始まり、繊細なピアノが綺麗なドラムンベースである。

 

・オレンジの夏/Hiro&タクマロ

SEGA社内アーティストHiroによる男性ボーカル曲。シティポップ風で、音ゲーとしては珍しいほど落ち着いた曲調だ。

 

・Lionheart/Masayoshi Minoshima

▲Masayoshi Minoshimaは、東方アレンジの「Bad Apple!!」で知られる。イントロのハードなベースを聴けば、氏の楽曲だとすぐにわかるはずだ。

 

Sky High[Reborn]/大久保 博

SEGAのレースゲーム、デイトナUSAの楽曲のアレンジ。アレンジャーの大久保博は、ナムコのレースゲーム「リッジレーサー」シリーズで有名なアーティストであり、レースゲーマーにとっては夢のコラボレーションだ。原曲の爽やかさはそのままに日本語ボーカルを加え、ダンサブルな四つ打ちに変身した。

 

印象的なのは、バラエティ豊かな収録傾向だ。

SEGA社内アーティストによる親しみやすいポップやロック。そこにクラシック音楽の「G線上のアリア」のアレンジである「True Love Song」や、民謡「炭坑節」のアレンジである「炭★坑★節」なんて曲もある。

中でも目立つのがゲーム音楽だ。SEGAのゲームであるバーチャファイターボーダーブレイクのBGMも移植されているほか、[Reborn]として、往年のゲーム音楽を大胆にアレンジした曲も収録されている。

加えて、東方アレンジで有名なARM(IOSYS)、D.Watt(IOSYS)、Masayoshi Minoshima、REDALiCE、発熱巫女~ず、といった面々のオリジナル曲が並ぶほか、PC音ゲーBMS」で有名なCrankyのオリジナル曲も収録された。

 

こうして見ると、聴き覚えのあるメロディ、やったことのあるゲーム、見たことのある名前……と、ユーザーの目や耳を引くための「取っ掛かり」を重視しているように思う。

ターゲットとしていたのは、他のSEGAゲームを遊んできたゲーマーであり、東方に育てられたニコ厨であった……かもしれない。

 

一方で気になるのが曲調だ。収録曲の多くは、聴いていて疲れない……悪く言えば「地味」な曲だ。言い換えれば、いわゆる音ゲー的な曲が少ない。

音ゲーの曲といえば、起伏に富んだダイナミックな展開や、8小節同じ音を聴かせない矢継ぎ早な展開、200BPMを越える高速曲や、音数が多く激しい曲……といった特徴が挙げられるが、そうした曲が少ない。多くの曲は、BGMとしても聴けそうな曲ばかりだ。実際、移植されているゲーム音楽の多くは、元々はゲームBGMなのだ。

一概に比較するべきではないが、2012年~2013年のKONAMIは、DDRに「PARANOiA Revolution」を入れたり、各機種に「Elemental Creation」を入れたりしていた。やりたい放題である。

もちろん音ゲー機種ごとに適した曲調があり、忙しい曲を入れればそれが良いという訳ではないが、少なくとも当時の僕はこの雰囲気が退屈で仕方なかった。

 

だが、この問題について、maimaiはある解決策を思いついたようである。

 

【DISC2】maimai GreeNmaimai GreeN PLUS(2013年~2014年

・Garakuta Doll Play/t+pazolite

▲t+pazoliteは、BMSや東方アレンジ、HARDCORE TANO*Cでの活動で有名。ハードコア×ダークな曲調は氏の特徴の一つで、Garakuta Doll Playはこれまでのmaimaiの曲調に比べると異質だ。この楽曲は後に他の音ゲー機種にも移植され、KONAMIのSOUND VOLTEXでも遊べるようになる。

 

・System "Z"/Jimmy Weckl

▲かつてKONAMIGuitarFreaks&DrumManiaで楽曲を提供してきたJimmy Weckl。この曲はGarakuta Doll Playと並ぶボス曲で、当時最高難易度のLv.12とのこと。リズムの難しい序盤は譜面を想像しただけでも具合が悪くなってくる。

 

・みんなのマイマイマー/ビートまりお(COOL&CREATE)+ARM(IOSYS)

▲「ウサテイ」のビートまりおと「チルノのパーフェクトさんすう教室」のARMという、東方アレンジで有名な二人の合作。ユーロビートを軸にPPAPなど電波曲らしい要素が盛り込まれている。

 

・Pixel Voyage/YMCK

太鼓の達人に楽曲を提供したこともあるYMCK。Pixel Voyageはボーカルとリードのメロディが交差するサビが気持ちいいチップチューンだ。

 

音ゲーらしい曲が少ない、と上に書いたが、GreeNバージョンで変化が現れる。

t+pazoliteの「Blew Moon」やSHIKIの「Death Scythe」など、いわゆる「音ゲーコア」と言われるような、展開に富んだ高速BPMのハードコアが収録される。

そしてそのような変化の最たるものが、t+pazoliteの「Garakuta Doll Play」である。BPM256でガバキックが鳴り響き、緩急の激しい展開が待ち受ける。

ある種、音ゲーらしからぬほんわかとした雰囲気のあった初代に対して、熟練の音ゲーマーでも閉口するようなガチガチのハードコア/スピードコア。

 

なぜ突然、このような「音ゲー曲」が投入されたのか。

アルバムに付属するブックレット末尾にある対談企画の中で、SEGAディレクターのコハDとJack、そして楽曲コンポーザーのt+pazoliteの会話として、次のようにある。

 

Jack まじめな話をすると、(中略)その頃のセガチームって「どういう風に発注をしたらどういう曲ができる」っていうノウハウがなかったんだと思うんですよね。

コハD そうそう。さらに正確に言うと、ゲームミュージックの中でも音楽ゲームの楽曲は結構異端だと思ってて。その音楽ゲームの楽曲がどういうロジックで出来上がるかっていうのが当時の僕たちにはわからない。だから作り方がわからないものをディレクションすることができない。結果、わかってる人に作ってもらうしかねーな!っていうので、そういう発注*3になったっていう…。できないヤツが関わったらロクなもんできないじゃん(笑)?

(中略)

t+pazolite そういう意味では、こちらも本当運がよかったです。ただ、当時はmaimaiが稼働して方向性を見極めていた頃だと思ってて、僕自身も音ゲーっぽい曲を作るノウハウはあるんですけど「maimaiっぽい曲」ではないんですよね。だからやりやすい分そこが苦労した覚えがあります。*4

 

当時のSEGA音ゲーを本格的に作り始めたばかりで、アーティストへの楽曲の発注が手探りだったようだ。そこでSEGAの取った手法が、音ゲー曲をわかってるアーティストに依頼する」というものであった。

結果、このGreeNバージョンでは、BMS作家であるSHIKIの「Death Scythe」や、Staの「Monochrome Rainbow」、KONAMI音ゲーで楽曲を提供してきたJimmy Wecklの「System "Z"」、平田祥一郎の「Beat of getting entangled」などが収録される。上に挙げたt+pazoliteもまた、BMS作家だった過去がある。

いずれのオリジナル曲も音数が多かったり、展開にメリハリがある。音ゲーに精通するアーティストを増やしたところ、音ゲーらしい曲が増えた……という当然の帰結だった訳だ。

もっとも、この時点では音ゲー系アーティスト以外の楽曲も多い。東方アレンジ系アーティストでは、ビートまりお×ARMによる合作曲「みんなのマイマイマー」や、SOUND HOLIC、A-One、ALiCE'SEMOTiON(REDALiCE)などのオリジナル曲が収録される(ただし、このうちの一部アーティストは他機種の音ゲーにオリジナル曲を提供したことがある)。

 

【DISC3】maimai ORANGEmaimai PiNK PLUS(2014年~2016年

・Oshama Scramble!/t+pazolite

▲Garakuta Doll Playのt+pazoliteによるアップテンポなハードコアレイヴ。「Let's 牛乳death!」から始まる中盤のHooverシンセを聴けばアガらざるを得ない。※引用はロング版

 

・D✪N’T  ST✪P  R✪CKIN’/EB(aka EarBreaker)

▲EarBreakerは、BMSのほか、韓国の音ゲーであるDJMAXに提供した「Super Lovely」「Dreadnought」で知られるアーティスト。強いキックに何層ものシンセサウンドとベース、声ネタが重なる。重厚なエレクトロである。

 

・ガラテアの螺旋/sasakure.UK

BMSに加え、ボカロPとしての活動でも知られるsasakure.UK。ピアノ主体のハイスピードなエレクトロニカで、氏のBMS楽曲「Jack-the-Ripper◆」からの進化を感じさせる。※引用はロング版

 

2015年、JOYPOLICEとのコラボレーション楽曲として、これら3曲が追加された。

アップテンポでキャッチーな「Oshama Scramble!」、重厚なエレクトロの「D✪N’T  ST✪P  R✪CKIN’」、インテリジェントな「ガラテアの螺旋」。誰でもこの3曲のうちどれか1曲は刺さるはず。そう断言できる、水も漏らさぬラインナップだ。

この3曲はmaimaiに実装された当時話題になっていたため、僕も思わず聴いてしまった。そして聴いた時、「maimai、ちょっと雰囲気変わったかも?」と思ったのだ。

しかしこれまでの流れを踏まえれば、これら3曲もまた、音ゲー曲をわかってる人に音ゲー曲を書いてもらう」というSEGAの手法の帰結なのだとわかる。三人とも音ゲー曲を作った経験があり、(「JOYPOLICEで流れるような曲」というオーダーがあったにせよ、)音ゲーの曲を作ることは難しいことではなかっただろう。

 

上記の3名だけではなく、このバージョンは「音ゲー曲をわかってる人」で溢れている。つまり、音ゲー界隈で有名な人ばかりである。

具体的に見て行こう。

 

・MIRROR of MAGIC/Shoichiro Hirata feat.SUIMI

KONAMIBEMANIシリーズに「Luv 2 Feel Your Body」など多くの楽曲を提供した平田祥一郎は、ハロプロのアレンジャーを務めたこともあるアーティスト。MIRROR of MAGICは大人びた雰囲気のガラージで、氏の経歴の深さが窺える一曲だ。

 

・7thSense/削除

▲SOUND VOLTEXに公募採用され、BMSイベントでの優勝経験もある削除。オーケストラとダンスミュージックが融合したような壮大で力強い音楽は唯一無二と言える。7thSenseは7拍の楽曲で、リズムを見失わせるような音ゲー的難所を数多く備える。

 

・Hyper Active/HiTECH NINJA

▲SOUND VOLTEXに数多く楽曲が採用されたLapix……の別名義と噂される、HiTECH NINJA。目まぐるしい展開とストップ&ゴーが忙しいハイテックとなっており、濃密な2分間を味わえる。

 

まず、過去にKONAMI音ゲーに楽曲を提供していたTatshや小野秀幸、カタオカツグミGuitarFreaks&DrumManiaに収録された「I'm a loser」で知られる樽木栄一郎も参加している。

次に、BMSで有名なxi、void、削除、Ras。Anも、ユニットのAcutic Notesとして参加する。

これだけではない。別名義を名乗っているが、KONAMIのSOUND VOLTEXに数多く楽曲が採用されたLapix、BlackY、C-Showや、beatmania IIDXに楽曲提供しているUSAOも参加していると噂される。*5また、同じくSOUND VOLTEXに採用されたTeam GrimoireもProject Grimoire名義で参加している。

 

極端に「音ゲー曲」に寄せられたようにも思える、なんとも潔いラインナップだ。

特に注目すべきは、KONAMIのSOUND VOLTEXの公募で受かった面々や、BMS作家を多く収録している点だ。楽曲公募で採用された、などの前例があるとはいえ、当時まだ商業ゲーム経験が浅いアーティストもいただろう。それをあえて積極採用する点に、SEGAの大胆な戦略が窺える。

 

多くの音ゲーアーティストを取り入れることによって、初代とは別物の雰囲気となったORANGE~PiNKバージョン。続くMURASAKiバージョンでは、更に過激な音ゲー曲が入るに違いない。

そう思っていたが、意外にもmaimaiは少し違った方向に舵を切るのであった。

 

>>後編に続きます。

 

 

*1:maimaiの筐体は洗濯機に似ている。参考:https://twitter.com/SEGA_OFFICIAL/status/669423940356464640

*2:もちろん、SEGAはmaimai以前からアーケード音楽ゲームをリリースしていることを忘れてはならない。maimai以前では「初音ミク Project DIVA Arcade」(2010年稼働)など。

*3:t+pazoliteへの発注について、Blew Moonは「ハッピーハードコアっぽいわかりやすいやつ」、Garakuta Doll Playは「ボスっぽい速いやつ」であったと語られている。

*4:『maimai ALL PERFECT COLLECTiON SPECIAL BOOK』 スペシャル座談会【楽曲編】 ノンブルが無いため頁数は省略。

*5:LapixはHiTECH NINJA名義、BlackYはWAiKURO名義、C-ShowはD-Cee名義、USAOはShandy Kubota名義。一部は別人という設定になっているので、ここではあくまでも推測ということにする。