maimai歴1時間未満だけどmaimaiベストアルバム(7年分 全185曲)を聴いてみた(後編)
この手法によって、音ゲー曲発注のノウハウのなかったSEGAは、多くの音ゲーアーティストによるオリジナル曲をmaimaiに収録した。
しかし次のMURASAKiバージョンで、maimaiは少し異なる方向に舵を切る。
【DISC4】maimai MURASAKi~maimai MiLK PLUS(2016年~2018年)
※良い曲が多すぎて選別できないので曲紹介が多いです。
・いっしそう電☆舞舞神拳!/さつき が てんこもり feat. YURiCa/花たん
▲VOCALOIDオリジナル曲のほか、アイドルソングなど様々な活動を行う、さつき が てんこもり。ギャグセンスと語呂の良さが特徴の歌詞は、氏の個性が炸裂している。
・ねぇ、壊れタ人形ハ何処へ棄テらレるノ?/cosMo@暴走P
▲cosMo@暴走Pは「初音ミクの消失」などの作曲者。音ゲーでは「初音ミク Project DIVA」にボス曲を書き下ろしたほか、KONAMIのSOUND VOLTEXやbeatmania IIDXに楽曲を提供した。この楽曲は暴走P名義の特徴でもある荘厳な雰囲気に激しいノイズ、厚いシンセリードを伴う。
・Imitation:Loud Lounge/Ino(chronoize)
▲BMSを中心に活動するIno(chronoize)。キックとシンセの重さに対する上品で軽快なウワモノのコントラストが、独特な陶酔感を作り出す。作曲者本人によると、HARD LOUNGEというスタイルだという。
・四月の雨/cubesato
▲CM楽曲などを手掛けるcubesatoは、チュウニズムへの楽曲提供で初めて音ゲーに参加したという。四月の雨は、ぽつぽつと降る雨の線を思わせる電子音に加えて、水の効果音が随所に鳴る、美しいエレクトロニカである。情景が目に浮かぶようだ。
・Candy Tall Woman/naotyu- feat. 佐々木恵梨
▲naotyu-は昔はBMS作家だが、現在は千葉"naotyu-"直樹として多くのアニソンなどの作編曲を担当している。音ゲーではスマホ音ゲーのCytusへ楽曲を提供。Candy Tall Womanはゆったりとしたジャズでありながら、Bメロからサビ、エレピのソロにかけて音ゲーらしい展開とメロディを楽しめる。
・Mare Maris/M2U
▲韓国音ゲーのEZ2DJをはじめ、DJMAXに提供した「Seeker」「Nightmare」や、スマホ音ゲーのDeemoに提供した「Magnolia」などで有名なM2U。Mare Marisはヴァイオリンの美しい音色から始まるが、曲全体はアコースティックとエレクトリックのキメラである。シンセの音すら弦楽器に聴こえてしまうような、独特な音使いだ。
この時期のmaimaiに感じた印象は二つ。一つ目は、歌モノが強いという印象。二つ目は、音ゲーアーティストの幅が広がったという印象だ。
まず一つ目の歌モノについて、軸となるのが、ボカロPと東方アレンジアーティストだ。
VOCALOIDオリジナル曲で有名なアーティストでは、さつき が てんこもり、「メランコリック」などで知られるJunky、「愛言葉」「ゴーストルール」などのDECO*27。東方アレンジで有名なアーティストでは、豚乙女、DiGiTAL WiNG、Halozy、A-Oneといった面々のオリジナル曲が収録されている。
音ゲーアーティストが多く収録されたDisc3(ORANGE~PiNK PLUS)の時期でも、ボカロ曲で知られるtilt-sixと東方アレンジで知られるA-Oneのオリジナル曲が収録されている。だがこのMURASAKI~MiLKバージョンにかけては、ボカロP・東方アレンジアーティストの人数は増えている。
そして、いずれのアーティストの楽曲も歌モノである。ボカロ曲も東方アレンジも、どちらも歌モノが強いジャンルであり、上記アーティストの十八番であろうことは想像に難くない。
二つ目の印象が、音ゲーアーティストの幅が広がった、というものだ。
これまでのmaimaiは、KONAMI音ゲーで楽曲提供したアーティストを多く収録してきた。また、BMS作家についても、xiや削除、voidなど、SOUND VOLTEXの楽曲公募で採用された面々が多い。これは悪意的に言えば、KONAMIの後追いである。
しかしこのMURASAKi~MiLKバージョンでは、スマホ音ゲーのCytusへ楽曲提供したnaotyu-や、韓国音ゲーのDJMAXで多数の楽曲を提供したM2Uなど、KONAMI音ゲーでは見ないアーティストの楽曲を採用している。また、BMSアーティストとしては、過激な譜面で知られるルゼや、Ino(chronoize)など、こちらもKONAMI音ゲーに提供していないアーティストを収録した。*1もっとも、kamome sanoや、かねこちはるなど、SOUND VOLTEXではお馴染みの面々も収録されているが。
以上二点を踏まえた上で、KONAMI音ゲーの有名人を多く取り入れてきたdisc3までと比較すると、収録楽曲に若干の方針変更があったようにも感じる。
なぜこのような変化が起きたのか?これは全くの推測だが、チュウニズムとのポジショニングが関係しているのではないかと思う。maimai MURASAKiバージョンの稼働が2016年で、チュウニズムの稼働は2015年。チュウニズムは稼働1年といったところだ。稼働初期からチュウニズムは多くのBMS楽曲を移植収録する方針をとっており、それはつまり、BMSを遊んできたようなコアな音ゲーマーがターゲットの一つだということでもある。コアな音ゲーマーが喜ぶような選曲やアーティストはチュウニズムに譲り、maimaiは引き続き裾野の広い音楽を収録する……という棲み分けの結果が、上記二点の印象に繋がったのではないだろうか。もちろん、これはチュウニズムのオリジナル曲を聴いていない時点での筆者の印象だ。チュウニズムの楽曲に触れた際に、答え合わせをしようと思う。
結果として、この時期のmaimaiは、ポップでキャッチーである一方で、他の音ゲーにない個性的な楽曲が集まったように思う。
【DISC5】maimai FiNALE(2018年)
FiNALEバージョンを最後に、maimaiは新筐体へ移行することが決まった。
一区切りであるが故に、その収録曲はこれまでの歴史を思い出させるものとなっている。
・Schwarzschild/Tsukasa
▲初代maimaiにて「Fragrance」を提供したTsukasa。当時の流れを汲みピアノが美しいドラムンベースだが、シンセがメロディを刻み、よりアグレッシブな曲調に進化している。
・QZKago Requiem/t+pazolite
▲もはやmaimaiではお馴染みのt+pazolite。「Garakuta Doll Play」の流れを汲むスピードコアで、GarakutaのBPMを1上回る257BPMを誇る。
・the EmpErroR/sasakure.UK
▲t+pazoliteの「Oshama Scramble!」と並び、「ガラテアの螺旋」を提供したsasakure.UKは、ハイスピードなエレクトロニカを制作。複雑なリズムが絡みながらビルドアップする緊張感と、その後のボーカルパートが美しい。
・PANDORA PARADOXXX/削除
▲7thSenseなどを提供してきた削除。変拍子をはじめ、唐突な展開が連続しリズムを見失わせる楽曲。ベストアルバム付属のブックレットの座談会によると、削除は過去のmaimaiボス曲を聴いて、「やったことのない」要素を考えた末にメトリックモジュレーションに行き着き、「『BPMを2個並走させよう』ってところにたどり着いた」のだそうだ。
聴いたところ、明らかに過去のmaimai曲の流れを汲む曲が多く、当時の背景を調べてみた。
wikiによれば、これはPANDORA BOXXXというゲーム内のイベントだったようだ。ゲーム内で特定条件を達成すると、maimaiの過去のバージョンの色に対応したボス楽曲が現れる。クリアすると青・緑・オレンジ・ピンク・紫・水色のエンブレムが手に入り、全て集めると削除の楽曲「PANDORA PARADOXXX」が現れるという。
実はこのイベントの楽曲は、過去のそれぞれのバージョンに楽曲を提供していたアーティストが作っている。*2
音ゲーにおいて過去のバージョンをモチーフとしたイベントは、例えばbeatmania IIDXにおいては、2009年に行われたPARALLEL ROTATIONや2012年に行われたLEGEND CROSSなどがある。このイベントはそれを思い出す……が、重要なのは、(当然ながら)これができるのは歴史のあるゲームだけだということである。言い換えれば、maimaiにも振り返ることができる歴史ができたということでもある。
新興音ゲーだと鼻で笑い数クレしか遊ばなかった僕には知る由もなかった、7年分の歴史だ。
ところで、注目すべきはそれら楽曲の曲調である。いずれもボス曲ということもあり、激しい展開を備えた曲調になっている。特に初代maimaiで「Fragrance」を提供したTsukasaの「Schwarzschild」は、曲の構成こそ「Fragrance」と同様だが、その音は明確にアグレッシブになり、音ゲー曲としても鮮烈な曲調に進化している。もちろん氏の技術的進化によるものだが、その裏にはSEGAのディレクションの功績もあったのではないかと思う。こうして「ボス曲らしいボス曲」を集めるのは、ただ「音ゲーをわかってる人に作ってもらう」だけでは成し得なかったのではないか。
さて、そのようなボス曲の頂点に立つラスボス、削除の「PANDORA PARADOXXX」を完走すると、エンディングとしてShoichiro Hirata feat.Sanaの「Believe the Rainbow」が現れたという。
・Believe the Rainbow/Shoichiro Hirata feat.Sana
▲「MIRROR of MAGIC」などの楽曲を提供したShoichiro Hirata。今回のボーカルはKONAMIのpop'n musicなどに参加した新谷さなえ。beatmania IIDXに収録された「真夏の花・真夏の夢」のコンビでもある。Believe the Rainbowは聴きやすいテクノポップとなっている。「Believe in me,my mind」という「maimai」の発音をもじった歌詞が印象的だ。
歌詞には「GreeNライム」や「PiNKの羽」など、maimaiの過去のバージョンの色が使われている。重ねて言うが、こういった振り返りができるのは歴史のあるゲームだけである。maimaiにはその歴史があり、7年を祝う資格がある。
【DISC6】ロングバージョン+α
disc6には、収録楽曲のロングバージョンのほか、「PANDORA PARADOXXX」のエピローグとなる「AFTER PANDORA」が収録されている。
聴き終えて
これまでゲームセンターに行くたびに見かけながら、触れてこなかったmaimai。
この10年で、maimaiは着実に成長してきた。もちろんその道は全くのオリジナルではなく、他の音ゲーの文化を貪欲に吸収したものである。その点において「SEGAのやり方が気に入らない」と言う人がいたのも事実だろう。
かく言う僕もその人だったのだ。オリジナルで文化が作れないから、KONAMI音ゲーに提供したアーティストを盗んでくるしか能が無いんだ、と思っていた。
だが今回ベストアルバムを聴いて、maimaiはただKONAMIを真似ているだけではないということを知った。音ゲーの発注の仕方がわからず手探りの状態から、さまざまな方面のアーテイストに声をかけたが故に、かつてKONAMI音ゲーで楽曲を制作したアーティストから洗練されたガラージを引き出し、ボカロPからキャッチーなハードコアを引き出し、なかなか注目されなかったBMSアーティストから新しいスタイルを引き出した。音ゲーを知らない、何色でもない土壌があったからこそ、maimaiには多くの名曲が生まれたのだ。あらゆる方面から色を取り込んだmaimaiは、まさしく虹色となったはずだ。
とは言え、これはあくまでもmaimai10年の歴史のうちの「7年分」の歴史である。
maimaiはFiNALEバージョンの後、新筐体に入れ替わり、「maimaiでらっくす」として今もゲームセンターで稼働し、現在進行形で更新を続けている。
maimaiはこの後、どのような進化を遂げたのか。それは実際に筐体に触れてみるまでわからない。
楽曲の予習が終わったのなら、実践あるのみ、である。
*1:KONAMI音ゲー提供者以外のBMSアーティストを取り入れてこなかった訳ではなく、例えばRasについてはSOUND VOLTEXに先んじて収録している。
*2:■初代:Schwarzschild/Tsukasa(当時「Fragrance」提供)■GreeN:QZkago Requiem/t+pazolite(当時「Garakuta Doll Play」提供) ■ORANGE:the EmpErroR/sasakure.UK(当時「ガラテアの螺旋」提供) ■PiNK:Alea jacta est!/BlackY fused with WAiKURO(当時「AMAZING MIGHTYYYY!!!!」提供) ■MURASAKi:FFT/cybermiso(当時「Panopticon」提供) ■MiLK:雷切-RAIKIRI-/kanone(当時「花と、雪と、ドラムンベース。」)提供